「古今和歌集」(「古今集」と呼ぶことも)は
905年(延喜5年)日本初の「勅撰和歌集」として、醍醐天皇の命によって作られました。
およそ127人の和歌、1111首が、四季・恋・その他13部に分類収録されています。
その序文として、紀貫之が平仮名で書いたものが古今和歌集「仮名序」です。
精選版 日本国語大辞典 より
「仮名序」は巧みな表現で、和歌の本質を語る貫之の名文として、知られています。
古今和歌集「仮名序」【紀貫之が和歌を説く名文】
古今和歌集 「仮名序」
やまとうたは、人の心を種として、
よろづの言の葉とぞなれりける。
世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、
心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、
言ひ出だせるなり。
花に鳴くうぐひす、水にすむかはづの声を聞けば、
生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
力をも入れずして天地を動かし、
目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、
男女のなかをも和らげ、
猛き武士の心をも慰むるは歌なり。
重要語句
人の心を種=人の心を源に
よろづの言の葉=さまざまなことば
世の中にある人=この世に生きている人は
ことわざ繁きものなれば=することがたくさんあるので
見るもの聞くものにつけて=見たり聞いたりするものに託して
言ひ出だせるなり=言い表したのである
生きとし生けるもの=この世に生きているものすべて
いづれか歌をよまざりける=どうして歌を詠まないものがあろうか(いや、ないのである)
天地を動かし=天地(の心)をも震わせ
鬼神をもあはれと思はせ=(目に見えぬ)精霊をもしみじと感動させ
猛き武士の心をも慰むるは歌なり=勇猛盛んな武士の心をも和ませるのが歌なのである
重要表現
☆「係り結びの法則」
よろづの言の葉とぞなれりける。
「ぞ」(係助詞)が文中にあると、結びの形が変化するきまりを「係り結びの法則」と呼びます。
(係助詞)は「ぞ(強調)・なむ(強調)・や(疑問・反語)・か(疑問・反語)・こそ(強調)」の5つがあります。
それぞれの係助詞のはたらきは、「強調」と「疑問・反語」に分けられます。
よろづの言の葉とぞなれりける。と変化するのね。なんだか「係り結び」の形の方が、迫力があるわね。
「係り結びの法則」によって、強調が強められますね。
同じく「係り結びの法則」の出現で、「反語」が使われている例も見られます。
「係り結び」反語の出現例
「係り結びの法則」反語表現も使われています。
いづれか歌をよまざりける。
(係助詞)「か」疑問・反語の意味が生じる。
ここでは「反語」で訳します。
どうして歌を詠まないものがあろうか。(いや、ないのである。)
「反語表現」は、「~であろうか。いや、ない。」という訳し方をします。
理由は、「断定の意味を強める」ために、あえて「疑問の形で投げかける」のです。
ちなみに
「係り結びの法則」で変化する結び形は…
「ぞ・なむ・や・か」のときは「連体形」
「こそ」のときは「已然形」
で文末をしめくくる。
結びの「活用形」は古典文法での形式になります。
そのような文末にしたほうが、より強調される「印象的な言い回し」になるわけです。
紀貫之が感じていた「和歌の本質」
今でも「言葉の力の影響力」について考えさせられる名文ではないでしょうか。
《出典》
「精選版 日本国語大辞典」
『新編日本古典文学全集11 古今和歌集』